
SILVANA : 1985 由比ヶ浜の想ひ出
UNDULATION特有の銀色のマチエールを基調に、真夏の太陽、青く澄んだ空、そして強烈な光を反射し続ける海を、物質の振幅として構築した作品です。
画面上部では、ターコイズに揺らぐ空が厚く刻まれたストロークによってうねり、右上には灼熱の太陽が渦を巻くように隆起する。その赤銅色の螺旋は、単なる天体ではなく、記憶の中心であり、当時の焦燥や昂りを内包したエネルギーの核として存在しています。
下部へと視線を落とすと、銀を基調とした海が幾層にも折り重なり、鋭く、そして執拗に光を跳ね返す。波は穏やかではない。規則性を持ちながらもどこか緊張を孕み、静かな不安を内側に抱え込んでいる。
本作の舞台は、作者が愛してやまない鎌倉・由比ヶ浜。20代前半に夏の週末ごとに通った海岸です。しかしその頃の記憶は解放感だけでは語れません。経済的な不安、仕事や生活環境への葛藤、未来への漠然とした焦り。強烈な太陽の下に立ちながらも心の奥には常に影がありました。
この作品における銀色は単なる光の表現ではありません。それは、眩しさの裏側に沈殿していた複雑な感情の反射面。希望と焦燥、自由と拘束、解放と不安。相反する感情が層となり、削られ、盛り上げられ、波として固定されています。
眩い夏の風景でありながら、どこか張り詰めた空気を纏うのはそのためでありましょう。ここにあるのは理想化された海の記憶ではありません。未完成で、揺れ動き、しかし確かに生きていた当時の精神の断面であります。
銀の波は、過去を美化するための輝きではなく、曖昧で脆かった自己をそのまま封じ込めるための構造体。本作は、真夏の光景を借景としながら、作者自身の若き日の内的振幅を物質化したUNDULATIONの一断章であります。





